宮崎大学精神科では、統合失調症や気分障害の臨床研究(神経生理・脳機能画像・神経心理)や行動薬理学的基礎研究(疾患モデル動物)、ならび にその両者をつなぐ研究(トランスレーショナルリサーチ)に力を入れています。また、深刻な社会問題でもある、自殺に関する臨床研究や、ひきこもりに対する支援にも着手しております。
神経生理・神経画像研究
当研究グループでは, マルチモーダルな脳機能データ(脳波, 脳磁図, PET)と脳画像データ(fMRI, sMRI, DTI)ならびに最新の解析手法を駆使して, 精神疾患の様々な症状や精神現象の視覚化を軸にした研究を推進している(e.g., JAMA Psychiatry 2015, PCN 2022, Cereb. Cortex 2023, Mol. Psychiatry 2023, 2024)。特に当科が主宰する国内多施設臨床脳波コンソーシアムでは, オールジャパン体制で精神疾患の疾患横断的な大規模脳波研究を推進している。また, 我々が専門とする神経同期活動を軸として, 学内外の基礎研究グループと連携しながら, 双方向性のトランスレーショナルリサーチにも注力し, 精神疾患の病態解明や新規治療法開発を目指している(e.g., Nat. Commun 2024, Brain 2023, Cell Rep. Med 2023)
国内多施設臨床脳波コンソーシアム:ACEP
行動薬理学的基礎研究
宮崎大学医学部精神科の基礎研究グループは、伝統的に様々な疾患のモデル動物を対象に、行動実験、神経薬理学的解析、免疫組織学的評価を行ってきました。これまでにはパーキンソン病モデル、てんかんモデル、慢性疼痛モデルマウスなどを用いてきました。最近では主にかゆみのモデルマウスにおいて、薬理学的操作によるかゆみの影響を【行動実験】ひっかき行動、不安行動、うつによる行動、【神経薬理学的解析】アゴニスト/アンタゴニスト、ドラッグリポジショニング、未知のペプチドの合成、【免疫組織学的評価】c-Fosタンパクの発現、【その他の技法】オプトジェネティクス、siRNAによるノックダウンなどを用いた研究を行っています(e.g., Eur J Pharmacol 2021, J Neuroscience 2020, 2023)
自殺研究
自殺死亡率が全国的に高い宮崎県では、自殺を予防するという社会の要請と、これらのケースに対して標準化された適切な精神科救急医療を提供していくことの重要度が高まっています。本研究では、自殺企図により宮崎県内の救命救急センター(厚生労働省認可施設:宮崎大学医学部附属病院、県立宮崎病院、県立延岡病院)へ搬送された症例を対象として、その患者背景、企図手段、精神科診断、処方薬内容などを調査し、自殺関連行動を行う症例の傾向ついて考察します。また、厚生労働省や警察庁の国内自殺統計データなどとの比較により、本県の自殺関連行動症例の特徴をあぶり出し、自殺死亡率の低減につながる方策を考えています(e.g., JAMA Netw Open 2022)。
ひきこもり研究
ひきこもりは医療保健、福祉、教育、就労などいくつもの課題が複合していることが多く、様々な専門性をもつ支援者同士が連携しながら手探りで支援にあたり、支援者の負担も大きい状況です。そこで当教室では、宮崎県ひきこもり地域支援センター(ひきこもりに特化した支援機関)、宮崎大学教育学部、地域の医療機関と共同でひきこもり支援者を支援する手法の開発やひきこもり地域支援体制の構築に関する臨床研究を進めています。支援者のスキルを測定する手法や支援者スキルを向上させるプログラムを開発し、支援者にアクセスしやすい形で提供する「宮崎モデル」を社会実装することで、世界的課題であるひきこもりの打開の一助となることを目指します(e.g., Curr Psychol 2022, Sci Rep 2021)。